これまで行われてきた多くの研究から、形態や体質などと同様に、行動や性格決定においても遺伝要因は重要な役割を果たしてることが分かってきています。しかし、その遺伝的仕組みについてはまだまだ明らかになってはいません。その大きな理由は、それぞれの行動表現型が多数の遺伝子の複雑な働きにより生み出されているために、個々の遺伝子の働きを解析しようとするとその効果が検出しにくいためです。このような遺伝的現象を量的形質の遺伝といいます。私達は動物の行動に関わる遺伝要因を明らかにするために行動遺伝学を進めています。
国立遺伝学研究所では、野生から捕獲したマウスをもとに多くの野生由来系統を樹立しており、一連の系統はMishima batteryと呼ばれています。このような野生由来近交系統は、系統間で進化レベルでの大きな遺伝的差異を有しているために、遺伝的多型に富み表現型としても新しい形質の発見につながると期待されています。また、野生由来のマウス系統はヒトによる積極的な愛玩化の選択を受けていない点も行動研究という点からは重要な利点があります。このように、Mishima batteryはヒト個人差のような集団内での多様性を解析する上で貴重な研究材料になると考えられます。私たちは、様々な行動テストを用いて、各系統の行動特性を調べてきました。その結果、系統間で大きな行動多様性があることを明らかにしています。私たちは現在、特にマウスの従順性、自発活動性、不安様行動、社会行動、攻撃行動、味覚感受性などに注目して研究を進めています。
ひとたび行動に関与する候補遺伝子がみつかれば、CRISPR/Cas9を用いたゲノム編集により遺伝子を改変し、行動にどのような影響があるか調べています。ゲノム編集の技術を導入することにより、自由にゲノムをデザインすることが可能になりつつあります。今後の研究展開においては夢のような技術です。 |